「一献傾ける」の意味とその起源となる儀式
「一献傾ける」の意味はお酒を飲むこと
お酒のコマーシャル等ではよく「一献いかが?」のようなフレーズが流れます。「一献傾ける」の意味はズバリ「お酒を飲むこと」です。一献傾けるには俗に言う「一杯やる」という意味があります。さらに詳しく言うと、「一献傾ける」の「一献(いっこん)」は「一杯の酒」、「傾ける」は「(お酒を)飲む」という意味です。「傾ける」の意味はお酒の入った容器、すなわち盃、お猪口、ぐい呑みなどを傾ける=飲むというイメージがすぐに浮かびますが、「一献」が=「お酒一杯」の意味になるのはイメージだけでは掴めないと思います。「一献傾ける」の意味はお酒を飲むだと、認識しておくと言いでしょう。
「献立」と「一献」の意味合いは非常に近い
「一献傾ける」の意味を考えたとき、問題は「献」が何を意味するのかです。「献」という単語から、現代人が初めに連想しうる熟語に「献立」があります。当たり前に使われる言葉ですが、改めて辞書で「献立」の意味を確認すると、「食卓に供する料理の種類や順序、メニューです。また、その予定を立てること(小学館大辞泉第二版)という意味もあります。「献立」は「献」と「立てる」が合わさってできた言葉なので、「献立」の定義に照らすと、「献」は「料理の種類や順序の予定」の意味です。この食べ物には、お酒も含むと考えられるでしょう。そのため、「献立」の意味と「一献傾ける」は非常に近い意味を持っていると考えられます。
「一献傾ける」は「酒肴(しゅこう)」を起源としている
「一献傾ける」の「一献」は「一杯の酒」、「献立」の「献」は「料理」を意味するなら、「献」は飲み物と食べ物の両方、より正確に言えば料理全体の意味を示す言葉ではないかと推測が成り立ちます。実際そのとおりで、「一献傾ける」も「酒肴(しゅこう)一献」が起源です。「酒肴」とは文字通り「酒」と「肴」のことであり、現代でも「酒の肴」と言いますが、昔も「酒」と、その「酒」に合う「肴」の2つが1つの食膳(献)として供されたといいます。
「酒肴一献」は三回繰り返すと「式三献」と呼ばれる儀式になる
「酒(サケ)」の語源は、「栄え(サカエ)」と邪気を「避け(サケ)る」にあるとされています。よって「酒」は「神酒」とも言われるように神聖なものとされ、平安以降の饗宴の場において儀式的に振る舞われました。実際の振る舞い方法は、酒と肴の膳が用意された席で、主賓がまず盃で酒を飲んだ後、その同じひとつの盃で上座から下座の人物へと順に回し飲みするというものです。これが「一献傾ける」の起源となる「酒肴一献」の礼法であり、「酒」と「肴」を変えながら三回繰り返されます。この「一献」三回分で「式三献」と呼ばれるひとつの儀式になるのです。「一献傾ける」の意味や起源を考えると、儀式だった「式三献」について知っておくといいでしょう。
「式三献」では9回酒を飲むことを意味している
「式三献」は「酒肴一献」を三度繰り返したものですが、「一献傾ける」の中でも三度に分けて酒が飲まれます。すなわちひとりの人物は「式三献」の中で合計3×3=9回酒を飲む計算になるのです。このことから宮仕えする女房たちの間では、酒は「九献」とも呼ばれました。「献」は本来「酒と肴」を意味しますが、「式三献」のメインがあくまで酒であることは、酒を指して「九献」と表現した女房言葉からもわかります。
神前結婚式で行われる「三々九度」は「式三献」の名残
3×3=9回という数から、神前結婚式で行われる「三々九度」の儀を連想する人も多いでしょう。まさに「三々九度」は「式三献」の名残なのです。「式三献」における回し飲みは、共食によって結束力が強まるという信仰に基づいていますが、その信仰は「固めの杯」という言葉の中に今も残っています。民俗学者神崎宣武氏によれば、「式三献」は中世から近世にかけて武家社会で儀礼化されたのち、庶民社会にも膾炙して夫婦の盃となったとのことです。「一献傾ける」の意味を調べていくと、「式三献」や「三々九度」のような起源となった儀式が深くかかわっているのがわかったでしょう。
「一献傾ける」の意味はお酒を飲むことでありその起源は「三々九度」や「式三献」
「一献傾ける」の「献」はもともと聖なる結束の儀式で供される「酒と肴」の食膳でしたが、そこからメインの「酒」のみを指して「一献」と言い、さらには反対に、酒を伴わない料理についても「献立」を用いるようになっていったのです。このように、「献」という言葉からは日本の伝統儀礼の一端が垣間見られるのであり、「一杯やる」にはない奥深さ、格調の高い意味合いが込められています。今後会社の宴会など酒の席にて、ふと「酒肴一献」に思いを馳せてみたら妙味を味わえるのではないでしょうか。
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