真の不幸は「孤独」から生じる~性風俗の世界から現代社会の問題点を導く~<後編>
一人一人の風俗嬢の異なる課題に手を差し伸べる
女性が性風俗産業に関わる真の課題とはなんなのか? 世間の人々は案外、本質を見落としてしまっている。何千という風俗嬢のキャリア支援を行ってきた一般社団法人GrowAsPeopleの代表である角間氏は、そう指摘します。
前編では、女性が性風俗産業に関わるキッカケや彼女たちが抱える悩みや課題にクローズアップしました。
後編では、GrowAsPeopleの具体的な取り組みと真の不幸を背負ってしまう女性を生まないための角間氏の考え方にフォーカスします。
女性が不幸を感じる要因はさまざまありますが、もっとも大きな種になっているのは「孤独」であると角間氏は言います。性風俗産業に関わったことで「孤独」が助長するのは事実ですが、それさえ取り除いてあげれば生きる道を見失わずに済むと。
風俗嬢は別ルートでキャリアを積むしかない
性風俗産業に頼って生きてきた女性が一般社会の仕事に戻ろうとするときの問題点は、空白の職務経歴ができてしまうこと。性風俗産業を生活の糧としたことで、一般のレールから外れてしまっている彼女たちの職歴を補うため、風俗嬢をつづけながら多様な経験が積めるしくみをGrowAsPeopleでは提供しています。
大学で勉学に励んだ人やスキルを積んできた人たちと肩を並べても勝てるはずがない。それなら別ルートを使うのが賢いやり方。同社では独自の視点で彼女たちのセカンドキャリア支援に力を注いでいます。
ゴールは風俗嬢からの卒業ではなく「孤独にさせない」こと
同社では、風俗嬢を卒業し一般社会に復帰させるのではなく、「孤独にさせないこと」がゴール。そこには、風俗嬢をつづけていても孤独でなければ完全に希望を失ってしまうことはないとの角間氏の想いが込められています。
「風俗嬢をやめたい」という相談はすぐ受け入れず、「なぜやめたいのか」を突き詰め、一人一人に最善のアドバイスを贈る。それは一般企業に勤めている人と同じ。慌てて昼の仕事に戻してあげることは彼女たちにとって最善ではなく、きちんと嫌な理由に向き合ってあげなければ、なんの解決にもならないのです。
本質と向きあわない社会では孤独はなくならない
現代社会では、夜の世界が最悪の象徴になっている傾向があり、たとえばDV被害を受け離婚したシングルマザーや何度も自殺未遂を図っている女性など、辛い事情を背負った人が夜の世界の住人である、そうであってほしいというのが世間の願望だと角間氏は考えます。
世の中に出るのは「可哀想なストーリーを背負った女性」だけ
現実とは異なるにも関わらず、一部の不幸なストーリーを背負った女性だけが切りとられ、それが「一般的な風俗嬢のイメージ」として世間に定着してしまっているのでしょう。社会が課題の本質と向きあわない限り、孤独な女性をなくすことは一向にできません。
安易に夜の世界を否定するのは無責任
友人や知人の女性から「お金に困って風俗で働こうと思っている」という相談を受けたら、「夜の世界なんてやめたほうがいい、ほかの道を探すべき」とつい言ってしまいがちですが、角間氏いわく、それは無責任な発言。
彼女たちを救う具体的な提案ができないなら、軽々しく否定すべきではない。そのような本質を見据えていない言動により悩みを抱えた女性が世間から排除され、孤独を生む要因のひとつとなるのです。
「つづけていればきっと報われる」と思えない現代社会の闇
先々の希望が見えづらく、なにかと不安がつきまといがちな現代社会では、風俗嬢に限らず誰しも仕事を辞めたい衝動にかられることがあるでしょう。
そんな社会だからこそ、夜の世界にいる女性を慌てて一般社会に戻すことが、必ずしも正しいとは限らない場合もあるのです。中でもブラック企業は闇の象徴。未来の幸せな姿を想像する余地も与えません。
ブラック企業にあるのはビジョンではなく「とってつけたような夢やポエム」
ブラック企業にはたいがいビジョンがなく、代わりにあるのは、とってつけたような夢やポエム。人々の不安につけ込み、薄っぺらい言葉ばかりを列挙する。社会に渦巻く不安を増長させる存在にも関わらず排除できないのは、社会自体に問題が山積みだから。
取り締まるはずの行政機関の機能が崩壊していたり、辞めたら生きていけないという恐怖から働きつづける選択をする人が絶えず、結果、業務上の精神障害による労災の請求件数は年々増えつづけています。勤務問題による20代の自殺者数も一向に減りません。
希望が見えない社会にこそ目をそらしてはいけない課題がある、角間氏はそう語ってくれました。
もっとも恐れるべきは「独りぼっち」
何千人というアングラの世界の住人と関わってきた角間氏は、世の中でもっとも恐れるべきは「独りぼっちになること」だと言いきります。お金がなくてもキャリアを失っても、孤独じゃなければどうにかなると。
現代社会が抱える闇をなんとなく不安視していても、なにも変わらない。一人一人が課題の本質と向きあってこそ、小さな灯りが見えてくるのかもしれません。
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