違法性阻却事由の意味と覚えておくべき該当例
「違法性阻却事由」は3つの言葉でできている
そもそものこととして、「違法性阻却事由」とはどのような意味なのでしょうか。3つの言葉がつながっていることはわかるものの、日常生活で使う言葉というよりは法律上の難しい意味を含んでいそうに思えてきます。そこでまず、言葉を分解してそれぞれの意味を理解してから、ひとつの単語としての「違法性阻却事由」はどのような意味になるのか確認していきましょう。
違法性阻却事由は法律違反の行為を否定する事実が存在したという意味
それでは、違法性阻却事由という言葉を分解して見ていきましょう。
「違法性」の意味:ある行為が法秩序に反する事
「阻却」の意味:しりぞける事、さまたげる事
「事由」の意味:法律で、理由または原因となっている事実や行為
それぞれの言葉には、以上のような意味があるのです。つまり、通常であれば法律上違法とされる行為を行ったにもかかわらず、その行為の違法性を否定することができる事実があったという意味になります。日本では、民法上のものと刑法上のものがあるので、それぞれの「違法性阻却事由」の意味を確認していきましょう。
民法は日本における一般法であり刑法は犯罪に対する刑罰の関係を規律する法
違法性阻却事由の具体例をご紹介する前に、民法と刑法の違いについてご紹介しますまず民法とは、一般市民に定められた法律であり、生活関係を規律する法律です。例えば、財産に関する判例や相続、結婚に関するものは民法に定められています。一方、刑法とは犯罪や刑罰を規律した法律です。そのため、暴力行為や危険運転致死罪といったものは、刑法によって裁かれます。
民法上の「違法性阻却事由」には名誉棄損等が該当する
違法性阻却事由は民法に定められています。民法720条に
「他人の不法行為に対し、自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない。」
とあるように、これは名誉棄損等が該当するのです。ただし、ここには違法性阻却事由の根拠である「正当な目的」のための「正当な手段」だという事を証明しなければいけません。
民法上での「違法性阻却事由」の具体例
A記者は「公務員Bが賄賂を収受した」という情報を聞きつけ、インターネット上で発表したとします。A記者は公務員Bの名誉を棄損したという行為にあたり、名誉棄損罪に問われてもおかしくありません。しかし、公務員の賄賂の収受は違法行為であり、公共の利害に関する事実を、公益を図る意味を持って公表したのであれば、違法性が阻却されます。ただし、違法性が阻却されるのは内容が真実であったときに限るので、A記者は公務員Bが賄賂を収受した事実行為を確認し、記事の真実性を証明しなければいけないのです。
刑法上の「違法性阻却事由」は正当防衛等が該当する
違法性阻却事由は刑法35〜37条に規定されており、中でも刑法36条は次のように定められています。
「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。」
この刑法36条は正当防衛等に該当します。ただし、ここでも違法性阻却事由の根拠である「自らを守る」ための「正当な手段」だということを証明しなければいけないのです。
刑法上での「違法性阻却事由」具体例
C子さんは痴漢撃退スプレーを常に持ち歩いていました。そして、夜道を歩いているときに痴漢Dが来て、実際にそれで撃退したとします。痴漢撃退スプレーをかけられた男Dは目や喉に刺激を受けたので、C子さんは傷害罪に問われることにもなりかねません。しかし、痴漢は突然に襲いかかったのであり、法律上の「急迫不正の侵害」を意味したと考えられるので、C子さんの違法性が阻却されます。ただしこれも、自身の防衛するための行為だったと証明しなければならず、防衛するどころか痴漢した男Dへ積極的に加害行為をした場合は、正当防衛とはみなされません。
違法性阻却事由の意味は本来違法と考えられている行為を否定する事実が存在するため名誉棄損や正当防衛が該当する
違法性阻却事由の意味と該当する行為について説明しました。民法上であれ刑法上であれ、本来なら法違反に該当する行為が自身や第三者を保護して防衛するための手段として行ったのであれば、罪に問われないというのが「違法性阻却事由」の意味です。そのためには、名誉棄損で訴えられないように根拠となる事実を集める必要があります。また、正当防衛であれば、自衛本能に基づいてほぼ無意識的・反射的になされた反撃行為にも、その意思を認めることはできます。名誉棄損や正当防衛の場面に遭遇しないことが一番良いのですが、万が一の場合に備えて念頭においておくようにしましょう。
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