モラルハザードの正しい意味と分かりやすい具体例
モラルハザードの意味や使用例は日本と海外では違っている
モラルハザードの意味というと日本では「モラル」の「ハザード」、つまり倫理観の欠如や道徳的な節度がない、といった意味で覚えている人が多く、実際にそういった使用例がとても多いです。しかしこれは日本で醸成された独自の意味なので、海外ではそのような意味では通じません。モラルハザードとは元々は保険業界の専門用語で、現在では金融・経済その他の分野でも使われています。
モラルハザードの本来の意味は人間の倫理観の問題ではない
モラルハザードの本来の意味は、「危険を避けるために手段やシステムを整えたのに、そのことで人の注意力が下がり、危険のリスクが高まって規律が失われてしまうこと」です。例えば「保険や保障に入ることでリスクを回避しようというインセンティブがそがれる」という、セーフティネットが抱えるシステム上のジレンマもその意味に含まれます。日本で定着している使用例のような人間の倫理観の問題ではありません。
元々の意味は故意の悪事に対して生まれた言葉
ちなみに、モラルハザードという言葉は元々、「火災保険を自宅にかけてその家を自分で燃やす」というような故意の行為に対して生まれた言葉でした。保険業界では現在の「油断によるリスク増加」の意味と区別して前者を“Moral—”、後者を“Morale—”と区別することもありますが、一般的には“Moral—”の表記でほぼ統一して使用されています。
モラルハザードの具体例とは?
モラルハザードの意味はお分かりいただけたでしょうか。経済学の分野を例にあげると『プリンシパル-エージェントの理論』という、「プリンシパル(経済主体)とエージェント(代理人)の間に生じる利害の不一致によって、エージェントが必ずしもプリンシパルの利益を優先しない現象」もモラルハザードとされ、市場での失敗に繋がる“非効率性”の問題として研究されています。では、モラルハザードの具体例を見ていきましょう。
モラルハザードの具体例①:医療保険への加入
モラルハザードの具体例として、医療保険への加入に関しても考えられます。医療保険は、大きな病気や事故などをした時に保障してくれるものです。しかしモラルハザードとして考えられるのは、そういった保障があることによって、健康管理への意識が低下してしまう状態です。医療保険に入ったからといって、安心しきってはいけません。
モラルハザードの具体例②:自動車保険への加入
また、2つ目の具体例として挙げるのは、自動車保険への加入です。この例はよく使われていますが、先ほどと同様、自動車保険に加入することで危険な運転をしてしまうなど、運転中の注意が欠如してしまうことも、モラルハザードといいます。自動車保険でのモラルハザードに関しては、事故率が高くなるため注意しなければなりません。
モラルハザードの具体例③:病院の受診
最後に紹介するモラルハザードの具体例としては、病院の受診です。体調が悪いと、病院へ行って診察を受けますよね。その際、病院では保険証を提示しなければなりません。保険証があると、受診しても自己負担が軽減されます。この点を逆手にとって、ちょっとした病気でも病院を受診してしまうのです。これも、モラルハザードの具体例として挙げられています。
モラルハザード対策の「インセンティブ契約」
このようなモラルハザードを防ぐために、例えば保険の世界では被保険者の保険加入情報の透明性を高める義務条項を定めたり、日本の政治の世界では、政治家が官僚の作成した法案への拒否権を行使したり、官僚人事への介入を行なったりしています。また、一般の雇用関係における「インセンティブ契約」も、エージェントのモラルハザードの回避策の1つとして意味があるのです。
モラルハザードの具体例から「安全対策が起こす危険のリスク」が本来の意味
モラルハザードの本来の意味は、「セーフティネットがあることで人の注意力が下がり、危険のリスクが高まって規律が失われること」です。例を挙げると、「車の保険に入ったことで事故への危機意識が下がり、事故のリスクがあがる」などです。また医療保険に加入したことで健康管理を怠る、保険料の自己負担が少ないため些細な症状で病院を受診する、などの例が該当します。日本での使用例と違うモラルハザードの本来の意味を理解し正しい使い方をしてください。
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